21CM1998年秋のセミナー報告



1998年11月8日、カリフォルニア州オンタリオにて、21世紀医学研究
所(21st Century Medicine、以下「21CM」)がセミナーを開催しました。
セミナー全体は、ビデオテープ(5本セット、50ドル)に完全収録されてい
ます。1本だけお買い求めいただく場合は、15ドルとなります。
セミナーのビデオテープをご希望の方は、以下の宛先まで、現金かクレジット
カードの番号(小切手か送金為替?)をお送りください。
宛先:Life Extension Foundation
住所:Box 229120 Dept. 21MED, Hollywood, FL 33022, U.S.A.

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第1部

21CMが低温生物学と蘇生の研究で前例のない成果を達成し、セミナーにて
発表。
(チャールズ・プラット)


「ガラス化(Vitrification)」

温度が低下しても、細胞を傷つける氷の結晶を形成することなく、液体をガラ
ス状の固体に変えること。低温生物学者は、これまで20年の歳月をかけて、
人体組織(ヒト臓器?)のガラス化には果たして有用性があるか否かを問い続
けてきたが、1999年末までに、21CMの研究スタッフによって、その答
えの手がかりを得られる見通しがついた。

同じころ、クライオケア財団(CryoCare Foundation)の前代表ブライアン・
ウォウク(Brian Wowk)も、これまでとは異なる合成凍結保護物質(低濃度・
高温でもガラス化を実現できる物質)を発見している(ウォウクの専門は生物
物理学)。ウォウクは「合成アイスブロッカー(合成氷遮断剤)」も開発し
た。「合成アイスブロッカー」は、その他多くの凍結保護剤の機能を高め、ガ
ラス化された組織(ガラス化された臓器?)の復温時に生ずる問題を取り除く
ことができる。

バイオプリザベーション(BioPreservation)の創設者マイク・ダーウィン
(Mike Darwin)は、心臓停止時に頻発する虚血性損傷(血液循環の不足に
よって引き起こされる損傷)を最小限に食い止める実験をおこない、見事な成
功を収めた。ダーウィンの研究チームは、正常体温で最長17分間「死亡状
態」に置いたイヌを蘇生させることに成功。非公式な記録ではあるものの、世
界記録を達成することになった。

このように革新的発見が相次いでいるため、そのうち必ず、氷による損傷を
まったく受けることなく(または最小限の損傷のみで)ヒトの脳を冷凍保存す
る方法が生み出されるはずだ。そして10年以内には、その脳を元通りにする
手法までもが生み出されるかもしれない。
もし、これが実現すれば、クライオニクスが未来の技術に依存する必要はなく
なる。



新しい凍結保護剤

発表の中で、ウォウクは「私たちが行き着いたのは、凍結保護剤の水酸基をメ
トキシル基に置換するという考えでした」と述べた。

メトキシル化合物は氷の形成を抑制し、はるかに効果的なガラス化を可能にす
る。メトキシル化合物を適切に組み合わせた混合液(カクテル)を用いれば、
摂氏零下79度(ドライアイスの温度)を上回る温度でもガラス化が可能とな
るため、保存費用が安くなり、組織構造を破壊する危険も減らせる。このた
め、ウォウクは「将来は液体窒素を使用せずに長期保存ができるようになる」
と予測している。

ただし、メトキシル化合物には、ひとつ問題点がある。細胞への毒性が増加す
るのだ。しかし「適切な化合物を選んで混合すれば、毒性を緩和できる」とい
うことも、ウォウクは発見している。



その他の凍結保護剤

上記の問題を克服するためにフェイ(Fahy)がたどり着いたのは、「VX」
と呼ばれる溶液だった。フェイは以前、「VS4−1A」という55%のD
MSO(ジメチルスルホキシド)溶液を作り上げたが、その後13年の間、さ
らに毒性が少ない溶液を生み出そうと試行錯誤を重ねていた。かくして「V
X」という新しい解決策が発見されることとなった。フェイによると、VX
混合液を用いれば、潅流下のウサギの腎臓を100%生存状態に保つことが可
能だという。

しかし、(VX混合液は)短時間で冷却できる小さな器官(ウサギの腎臓な
ど)には有用だが、それよりも冷却に時間のかかる大きな器官に関する問題は
解決していない。

この問題を解決するために、フェイは、ある特殊な物質を試すという手段を
とった。南極の魚の体内に含まれる不凍タンパク質を使ったのだ。さらに、ガ
ラス化した標本の復温時に氷の結晶が形成されるという厄介な問題について
も、カブトムシのタンパク質が解決手段となることも発見した。

「これは素晴らしいことです!」とフェイはセミナー参加者に訴えた。
しかし、カブトムシのタンパク質は1ミリグラム=1000ドルもする貴重な物質
である。



アイス・ブロッカー(氷遮断剤)

この後、ブライアン・ウォウク(Brian Wowk)がグレゴリー・フェイ
(Gregory Fahy)からマイクを受け取り、自らおこなった「合成アイスブロッ
カー(synthetic ice blocker)」に関する研究について説明した。天然の不
凍タンパク質よりも安価な物質の可能性を探った研究である。

「成功しました。ほとんど完璧な成功です」とウォウクは語った。

ウォウクはグラフを見せて、「21CMーX1」というアイスブロッカーをD
MSO(ジメチルスルホキシド)溶液に加えた際に、ガラス化がどのように促
進されるかを示した。

また、X1には「復温中に氷が組織を傷つけないようにする」というカブトム
シのタンパク質と同じ作用があることもわかった。


第2部

実社会での応用

フェイはこれらの発見について説明してから、即座に儲けを期待できそうな応
用分野をリストアップした。まず挙げたのは、移植の分野。「人工組織と人工
臓器は際限なく供給できるため、市場としては計り知れない」とフェイは述べ
た。
フェイが期待している最初の応用分野は腎臓の凍結保存だが、「肝臓の凍結保
存にも応用できる可能性がある」とも述べている。


その他の市場

フェイは、凍結死亡後1モルのグリセリン溶液内で解凍した精子が「VX凍結
保護物質(フェイが発見した新物質)」の中で生存したことを示すビデオも披
露した。
「これによって、精子バンクは精子ドナー(精子提供者)数を増やすと同時
に、コストも抑えることができます。この分野も21CMの市場となるわけで
す。」
彼は「角膜のガラス化でも同様の成功が期待できる」と述べたが、これについ
ては、まだVXを使って試したことはない。


脳の凍結保存

「私たちは脳の完全なガラス化に匹敵することを達成したと思います」とフェ
イはコメントした。

これほど早く成果が出るとは、1年前には誰も考えることすらしなかった。さ
らに、この手法では、超急速冷却や高圧処理などの特殊なテクニックは不要な
ため、凍結保存した脳の標本に構造的損傷をほぼまったく及ぼすことなく、復
温することができた。おそらく毒性による化学的損傷は若干生じていると思わ
れ、機能回復はこの化学的損傷によって阻害されることになるのだろう。この
点を解決するには、さらなる研究が必要だ。また、特別な絶縁処理を施した個
室も必要となる。その中で患者にパーフルオロカーボンを噴霧し、遠隔操作で
患者の体内に潅流させるのだ。21CMには、すでに冷却室の試作品が建設さ
れている。

脳のすべての部分がうまく保存できたわけではない。しかし「これまでに達成
されなかった水準です」とフェイは報告した。「もうじきかなりの生存率、つ
まり脳の50%が生存している状態を達成できるようになるでしょう。超微細
構造で同様の成果を生み出すことができるテクニックで脳を処理すれば、きっ
とできるようになると思います。」


第3部

「"仮死保存状態(suspended animation)"が実現するまで、どのくらい待た
なくてはならないか?」という質問にウォウクは「脳は10年以内に、腎臓に
ついては集中して研究に取組んでいるので、もっと早く実現できるでしょう」
と答えた。

ダーウィンも「脳の研究への資金提供者が必要だ」と認め、「ただし、心臓、
腎臓、肝臓の研究へ資金を提供している人々は、脳の研究には資金提供をしな
いでしょう」と述べた。心臓などの研究に資金提供をしても、その分だけ具体
的な見返りを期待できるが、脳の保存の研究をして得をするのはクライオニス
トのみだからである。


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マイク・ダーウィン率いる21CM研究チームが、通常体温における虚血状態
で世界一長くイヌを生存させるのに成功


これまでにダーウィンの研究チームは、麻酔下で通常体温のイヌを心停止させ
てから15〜17分経過後にイヌを生き返らせる実験を繰り返しおこない、確
実に生き返らせることができるようになるという、すばらしい成功を収めた。

だが残念なことに、この手法は煩雑だ。血流回復後5〜15秒以内に複数の薬
品を投与し、患者の体温を3〜5分間以内に摂氏4度まで下げなければならな
い。臨床現場で実際に人間の患者を扱っている医療補助職員がこのように煩雑
な作業をできるようにするには、どうすれば良いのか?

ダーウィンは「薬の投与にはコンピュータ制御システムが必要」と説いた。F
DA(米国食品医薬品局)は生物医学用のソフトウエア承認に後ろ向きな姿勢
をとっており、さらには薬品のカクテル(複数の薬品を混ぜ合わせること)に
も大筋で反対している。したがって、ダーウィンのチームが開発した手法は、
少なくとも当初の間は米国外でのみ実施可能な状態となる。

「このプロセスの自動化が実現すれば、医療補助職員なら誰でも実施できるよ
うになります」とダーウィンは参加者に語った。彼はこの手法が多くの生命を
救うだけでなく「利益も生み出す中心(プロフィット・センター)」になる可
能性があると予想しており、2〜3年以内に臨床実験がおこなわれることを希
望している。


以上