クライオニクスの歴史
・考え方、初期の保存
少なくとも、1920年代あたりから生命保存の考えは検討されてきました。1964年に Robert C.W.Ettinger氏によって発行された The Prospect of Immortality(不死への展望)という本を皮切りに実際の人体冷凍保存学は研究されはじめました。最初に冷凍されたのは1967年1月12日に冷凍された James Bedford博士です。エッチンガー氏は現在も現役で、
Cryonics Instituteという団体を主宰しています。現在、最大のクライオニクス団体であるアルコー生命延長財団は1972年に設立されました。アルコーは1976年に最初の冷凍保存を行いましたが、70年代の保存技術は未熟なものであり、将来の回復(Reanimation)についての展望もきわめて薄いものでした。
・ナノテクの考え導入による成長
1980年代前半に、医学的また科学的経歴を持つ二人の人体冷凍学者がアルコーに参加したことで研究が進み、保存法も改善されました。しかし、それでも回復については展望がありませんでした。冷凍により細胞が凍り、解凍するときに受ける損傷により回復は望めないというのが科学者の見解でした。状況が変わったのは、Eric Drexlerが分子レベル技術(ナノテクノロジー)について書いた Engines of Creation が出版されてからです。分子レベルの大きさで、知能をもったロボット(アセンブラーと呼ばれています)が細胞の損傷を直せるという推測が書かれています。この本により多くの学者・技術者がクライオニクスに興味を示すことになりました。
この時期、アルコーも量的に大きく成長しました。ドレクスラー博士もアルコーの会員であり、フォアサイト研究所でナノテクノロジーの研究を進めています。
参考文献
・不死テクノロジー エド・レジス著 工作社
・ナノテクの楽園 エド・レジス著 工作社
ちなみにアルコーによる脳だけの保存の必要最低料金は5万ドル程度です。もちろんこれは米国内の話です。米国で非常時にアルコーがかけつけて保存をしてくれるという保証料金は年額300ドル強です。くわしくはホームページをごらんください。
5万ドルを払うことが難しい場合、生命保険にはいって受取人をアルコーにするという選択もあります。その場合、月額60ドル程度です。日本ではまだサービスはありません。イギリスではほぼサービスが可能になろうとしています。
・より完全な保存への挑戦
ナノテクノロジーは人類の価値観まで変えてしまうような可能性を持ったものです。しかし、まだいかにすれば冷凍された人を回復させるような「アセンブラー」ができるのか? その道筋は示されていません。
現代の医学の延長で、完全な保存を実現すべく研究を続けている団体があります。21世紀メディスン(21CM)がそれで、年間2億円をこえる研究資金を投入しています。ここの中心人物は Saul Kent で、かれはビタミン等寿命を伸ばす(Life Extention)薬の販売事業で成功し、その収益を研究に投入しています。あと何年で完全な保存が実現するかについては意見がわかれていますが、21CMと関係が深かったPaul Wakferは20年以内と見積もっています。この保存の技術は「ガラス化」と呼ばれています。詳しくはメールマガジン7月号をお読みください。
・関連した動き
(1)回復への期待
回復への道筋が示されていない現在、クライオニクス団体は回復を保証できるものではありません。が、回復の可能性なしには人々はクライオニクスの世界に飛び込まないでしょう。「完全な回復」についてもいつ実現するか議論が分かれていますが、ナノテクとともに急速に伸びた”ナノ・メディスン”(ナノレベルの医療)の第一人者のRobert Freitasによると、低温保存された人が最初に甦ることは2040年より前に実現できるそうです。以下に、回復に関連する動きをいくつか紹介します。
・Life Pact
アルコー内部の団体です。もし自分が回復(Reanimate)されたら Life Pact の他のメンバーの回復に尽力するということを誓うグループです。最初のひとりは科学的研究のため復活できるだろう、そうすれば誓った仲間は次々復活できるだろう、という趣旨で結成されました。推進者が引退したため現在ちょっと活動は停滞しています。
・Reanimation Foundation
復活に備え、リヒテンシュタインで投信を利用して財産を管理します。このグループで投信の契約をすると、それぞれ Individual Reanimation Account を持ち、自分が法的に死んだ後も財産を管理してもらうことができるとのことです。Saul Kentがリーダーです。もちろん、Suspensionの契約をしていない人はこのグループのメンバーになることはできません。
・Metamorphosis Society
よき未来を作るため努力し、その結果未来へ行こうという団体です。
Life Pactに近いですが、特定のクライオニクス団体に属さず、Futuristのネットワークを作り、未来の Futurist(すなわち後輩、仲間)によって回復させてもらうことを期待するネットワークです。いつかはReanimationの手法が確立し、かつ安価になるはずですので未来の後継者による復活が期待できると考えています。米国、オーストラリア、ドイツ等にメンバがおり、発起人は日本人です。
(2)安楽死
安楽死が法的に認められているのはオランダと米国オレゴン州です。ミシガン州が投票寸前、アリゾナ州でも法案が用意されています。この法案はクライオニクスにとって重要です。たとえばアルツハイマーによって自分の脳が壊れていくのを座して待つより、自ら生命活動を中断することができるかもしれません。「死」はゆっくりとやってきます。医学的に「死」と宣告されてからも復活の可能性は十分あるわけです。一時期クライオニキストの間ではやったジョークを紹介しましょう。
「心臓が止まった?? うーん、そりゃちょっと具合が悪いなあ(笑)」